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論文の追試 04 — PUB-2026-004 通説は確認できず

為替はキリ番で、
本当に跳ね返るのか

「150円は節目だから一度は止まる」「1.1000を抜けたら走る」。キリ番の話は、チャートを見る人なら誰でも一度は聞いたことがあると思います。 これには学術的な裏付けもあって、Osler(2003・2005)は銀行の注文データから、利食いの指値がキリ番ちょうどに、損切りの逆指値がそのすぐ外側に集まることを示しました。 論文と同じ考え方の検定を2020〜2025年の主要3ペアに当てると、キリ番で反転する割合は、ふつうの水準よりわずかに低いという結果でした。

方法 Osler (2005) JIMF 24(2) の価格検定 通貨 EURUSD・USDJPY・GBPUSD(副対象7ペア) 期間 2020-01〜2025-12・NY 9〜16時 研究ID PUB-2026-004
キリ番の反転率 − ふつうの水準
-0.55pt
90%区間 -1.2〜+0.1pt。論文はDEMで+4.5pt
突破後15分の値動きの差
+0.47pip
キリ番のほうが大きいが p = 0.07
キリ番で逆張り(15分)
-1.64pip
スプレッド・手数料控除後の1回平均

01キリ番の話には、学術的な根拠がある

Carol Osler は、大手銀行が顧客から預かっていた条件付き注文(利食いの指値と損切りの逆指値)9,667件を調べ、注文の置き場所が偏っていることを示しました(2003年、Journal of Finance)。 利食いの注文はキリ番ちょうどに集まり、損切りの注文はキリ番のすぐ外側に集まる。 だからキリ番に近づくと利食いに押し戻されやすく、いったん抜けると損切りが連鎖して加速しやすい、という説明です。

2005年の論文では、この2つを1996〜1998年の1分足で確かめています。ドイツマルクではキリ番で15分後に反転していた割合が59.3%、ふつうの水準では54.8%でした。

02同じ方法で、2020〜2025年を測る

  1. 水準を2種類用意する。キリ番(1.1000、1.1050、150.00、150.50 のような50pipごとの水準)と、同じ間隔を8〜42pipずらした「ふつうの水準」35本。
  2. 到達を数える。1分足の高値・安値が水準の±0.01%(1〜1.5pip)に入り、直前の1分はその外にあったら「到達」。同じ水準は15分間は数え直しません。
  3. 15分後を見る。元の側に戻っていれば「反転」、反対側に抜けていれば「突破」。
  4. 約10営業日ごとに比べる。キリ番の反転率が、ふつうの水準の平均を上回った区間がいくつあるかを数えます(論文と同じ二項検定)。

主対象の3ペアで、キリ番への到達は24,190回、ふつうの水準への到達は908,427回ありました。

03キリ番の反転率は、ふつうの水準より低かった

キリ番とふつうの水準の反転率
図1:水準に到達してから15分後に元の側へ戻っていた割合(縦軸は50%から)。3ペアとも、キリ番のほうがわずかに低い。
表1:ペア別の反転率と差。差の90%区間は約10営業日ごとの区間から計算。論文の差(+1.5〜+4.5pt)は、どのペアの区間にも入らない。
ペアキリ番ふつうの水準差差の90%区間論文の差(pt)
EURUSD58.4%59.0%-0.69pt-1.8〜+0.4+4.5(DEM)
USDJPY58.7%59.5%-0.75pt-2.0〜+0.5+2.8
GBPUSD57.5%58.0%-0.20pt-1.2〜+0.8+1.5

キリ番が上回った区間は564区間中270区間で、半分を下回りました(p = 0.85)。 副対象の7ペアでも、キリ番の反転率が有意に高かったのは AUDJPY(p = 0.02)だけです。7ペア中1つなら、偶然でも起こる範囲です。

04抜けたあとの加速は、かすかに見える

もう一つの主張、「キリ番を抜けると走る」のほうは、わずかに痕跡がありました。突破した場合の15分後の距離は、キリ番のほうが平均 0.47pip 大きい。 ただし区間ごとの比較では p = 0.07 で、事前に決めた基準(p < 0.05)には届いていません。 損切りの注文がキリ番の外側に集まるという構造は、今も弱く残っているのかもしれません。売買に使える大きさではありません。

05キリ番で逆張りすると、どうなるか

念のため、キリ番に届いた瞬間に逆向きに建てて15分で決済する売買も数えました。コスト前の平均は -0.02pip でほぼゼロ、 スプレッドと手数料を引くと1回あたり -1.64pip です。24,190回分なので、偶然でこうなることはありません(日付クラスター頑健 t = -20.3)。 キリ番は、反発を狙う場所としては、ふつうの水準と区別がつきませんでした。

06なぜ論文と違ったのか(推測)

論文のデータは1996〜1998年、電子取引が主流になる前です。当時は銀行の顧客が電話で指値を置き、その多くがキリ番でした。 いまはアルゴリズムの注文が大半を占め、キリ番を意識した指値はむしろ「キリ番の手前」に分散しているのかもしれません。 ここは推測で、今回のデータでは確かめられません。確かめられたのは、2020〜2025年の主要3ペアでは、キリ番で跳ね返りやすいという現象が観測できないことだけです。

07この検証の限界

価格は BID のみで、上昇局面の到達を ASK で判定した論文とは少し違います(許容幅±0.01% に対して、スプレッドは0.1〜0.9pip)。 見たのは15分後だけで、数時間単位の効果は測っていません。比較対象の水準には xx25・xx75 のような「準キリ番」も含まれますが、無作為な水準でも同じ割合で含まれるので、比較を有利にも不利にもしません。 8本の追試をまとめた Holm 補正後の p 値は1.00です。

この検証の途中経過

キリ番の検定をどう組むかで迷った点(何を「到達」と呼ぶか)は note に書いています。

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検証条件: 価格=生M1データ(BID・UTC換算)EURUSD・USDJPY・GBPUSD 2020-01〜2025-12(副対象:AUDUSD・NZDUSD・USDCAD・EURJPY 2015〜2025、GBPJPY・AUDJPY・NZDJPY 2020〜2025)/ 時間帯=ニューヨーク 9〜16時(論文と同じ)/キリ番=50pip格子(下2桁00・50)、比較対象=同じ格子を8〜42pipずらした35本の水準/ 到達=1分足の高値・安値が水準の±0.01%に入り、直前の終値がその外にあった/反転=到達から15分後の終値が元の側にある/区間=約10営業日ごとに集計し、キリ番が比較対象を上回った区間の数を二項検定/ 売買=到達した分の終値で接近と逆向きに建て、15分後に決済。時刻別の実測スプレッド中央値+往復手数料1.0pipを控除。 判定基準は結果を見る前に固定し、独立した監査の事前レビューを経て実行。 掲載した数値はすべて過去データに対する集計であり、フォワードテスト・実口座運用の結果ではありません。

免責: 本ページは検証プロセスの開示を目的とした研究ノートです。投資助言ではありません。特定の金融商品・取引業者の利用を推奨するものではありません。 バックテスト・過去データの集計は将来の利益を保証するものではありません。FX取引には元本割れのリスクがあります。 図表はすべて実測データからPythonで描画したものであり、生成AIによる作画は含みません。