Exploration Batch #1 · Method Note

FXバックテストで「効いて見える」
7つの理由

2026-07-17無料データ8仮説の高速検証図はすべて実データ生成

テクニカル指標とヒストリカルデータで戦略を検証すると、集計した瞬間は「効いている」ように見える数字が 驚くほど簡単に手に入ります。問題は、その数字がどれだけ生き残るかです。私たちは1日で 8つの仮説を高速スクリーニングし、うち7つで「集計では有望に見えた効果が、 一つ点検を加えると消えていく」様子を記録しました。本稿はその7つの消え方を、すべて実データの図で示します。

本稿は売買ロジックの宣伝ではありません。ここで検証したどの仮説も、コスト後に安定して勝てる 売買ルールには至っていません。共有するのは「なぜ有望に見えた効果が消えたのか」という検証の作法です。 各図の数値はすべて出力CSVから機械的に描画しており、手入力していません。

01年をまたぐと符号が変わる

局所構造 3σ級の急騰・急落(ジャンプ)のあと、価格は続伸するのか反転するのか。全期間をプールすると、 静かな相場でのジャンプは継続率がやや高く見え、事前に決めた基準(継続率の差10ポイント)も 一度は満たしました。ところが同じ数字を年ごとに割ると、2020年と2023年では符号が逆を向きます。

2531384450全期間 38.1%392020382021352022332023422024422025ジャンプ後の継続率 %
USDJPY H1・2020–2025。ジャンプ後4時間の継続率を年別に表示。赤は全期間平均(38.1%)を下回った年。年ごとに上下し、「低ボラ時のジャンプは続伸する」という一言は支持されない。

プールした平均は、たまたま強く出た年に引きずられます。年次で割るだけで、 多くの「発見」はここで力尽きます。

02大標本の有意が、ただのトレンドの影

効果不在 H4バーの中で高値と安値のどちらが先につくか。1分足からラベルを作って測ると、 「高値が先」は47.8%——50%から統計的には4.32標準誤差も離れた「有意」な非対称に見えます。 n=9,263。立派な数字です。

45.046.548.049.551.050/50(無情報)47.8観測 47.76%47.8陽/陰の 混合比から予測49.7陽陰 等ウェイト高値が先に付く確率 %
同じ非対称性を分解する。2020–2025のUSDJPYは上昇相場で陽線が52.5%を占める。陽線・陰線それぞれの『高値が先』率を混合比で加重するだけで、観測値47.760%が予測値47.761%と0.001ポイントまで一致する。

この非対称は、上昇相場で陽線が多かったという1変数だけで完全に説明されます。 陽線と陰線を等ウェイトにすれば49.7%、ほぼ50/50。標本数と標準誤差は、それが情報である保証を与えません。

0326年で見ると、それは「2020年代だけ」の話

効果不在 「共通のドル要因を取り除けば、通貨ごとの行き過ぎ(平均回帰)が見えるはず」——もっともらしい理屈です。 6通貨の日次データ26年分(FRED H.10)で、共通因子を各時点までのデータだけで推定して除去し、 残差の自己相関を測りました。事前の想定は「残差は生リターンより強く平均回帰する」。

-0.045-0.026-0.007+0.011+0.0302000-20092010-20192020-2029生リターン因子除去後の残差1日自己相関
1日ラグ自己相関を10年区切りで比較。因子除去後の残差(橙)が生リターン(青)より負に振れる=平均回帰が強まるのは2020年代だけ。2000年代・2010年代はむしろ逆符号。

結果は符号が逆でした。しかも残差の平均回帰が効くのは2020年代だけで、 2000年代・2010年代は逆を向きます。当社の別手法による過去検証(週次リバーサルは2020年以降のレジーム現象)と、 偶然にも同じ結論に着きました。「最近効いている」を「構造」と呼んではいけません。

04美しく単調で、安定して見えるバグ

効果不在(先読みバグを自己検出) コスト負けした5つのトレンド戦略について、「値幅が大きくなりそうな時だけ取引すれば救えるか」を試しました。 最初の集計は見事でした——値幅/コスト比が最も高い層で純益プロフィットファクター1.295、5年すべて安定、 Gate1の壁(1.10)を超える。まさに聖杯です。

0.400.680.951.231.50Gate1 の壁 1.10Q1Q2Q3Q4Q5先読みバグ版修正版グロスPF(コストを含まない)
その聖杯(赤)と、バグ修正後(緑)のグロスPF。バグ版はコストと無関係なはずのグロスPFまで単調に上昇していた。修正版は逆に、値幅が大きい層でグロスPFが1.10を割り込む。

異変は、走行前に決めておいた点検——「コストを含まないグロスPFも必ず見る」——で気づきました。 コストと無関係なはずのグロスPFが、なぜ層を上がるほど改善するのか。原因は保有期間の使い方に潜んだ先読みでした。 「反対シグナルが来るまで持った」という長い保有は、結果を見てからでないと分かりません。長く持てたトレードは 勝ったトレードなので、「値幅/コスト比が高い=勝った」を後から選んでいただけです。修正すると効果は消えました (純益PF 1.295→0.940)。この点検の一行を書いていなければ、私たちはこれを成果として発表していました。

05長く持てば良くなる——コストを薄めているだけ

効果不在 死んだシグナルの情報は、特定の保有時間に集中しているのではないか。固定の保有時間(1〜24バー)で決済して、 期待値の曲線を丸ごと測りました。純益PFは保有を延ばすほど0.71から1.01へ改善します——一見、朗報です。

0.600.750.901.051.20Gate1 の壁 1.10123468121624グロスPF(コスト前)ネットPF(コスト後)保有時間 h(H1バー・対数軸)プロフィットファクター
コストを含むネットPF(橙)は保有時間とともに改善する。しかしコストを含まないグロスPF(青)はほぼ横ばい(1.05→1.09)。改善の正体は情報の増加ではなく、固定コストを長い保有で薄めているだけ。

ところがコスト前のグロスPFはほぼ横ばい(1.05→1.09)。純益が良く見えるのは、 1回分の固定コストを長い保有時間で割り算しているだけで、シグナルの情報は1ビットも増えていません。 しかも薄め切っても、最良の(9通りから選んだ)保有時間で1.008——壁には届きません。

06相関はボラティリティの言い換え

効果不在 「通貨が一斉に同じ方向へ動く(相関が高い)時期の後には、大きな共通ショックが来る」。危機の記憶に合う話です。 無条件で測ると、相関が高い局面のあとの共通ショックは1.16倍——予測できているように見えます。

0.8000.9131.0251.1371.2501.0(無情報)1.162無条件 (相関Q5/Q1)0.977低ボラ 0.950中ボラ 0.954高ボラ 共通ショック比 R
無条件では相関Q5/Q1の共通ショック比は1.162。しかしボラティリティ水準で3分割してから測り直すと、どの水準でも比は1.0を割る(0.95前後)。相関が持つ情報はボラティリティが先に持っている。

しかし相関が高い時期は、たいていボラティリティも高い時期です。ボラ水準で条件をそろえてから測ると、 共通ショック比は0.95前後——効果は消えるどころか、わずかに反転します。10年区切りでも3期間すべてで1.0未満。 相関を見る価値は、ボラティリティを見る以上にはありませんでした。

07「下」がどちらか——引用方向の落とし穴

構造は実在/宣告は保留 リターンをボラティリティで標準化して大きさの違いを取り除いても、テールの厚みは通貨で偏ります。 豪ドルは下落側のテールが厚く(テール比1.50)、円は逆に上昇側が厚い(0.88)。 「キャリー通貨は階段で上りエレベーターで落ちる」という定性的な通説と整合します。

0.800.991.181.361.551.0(対称)0.88JPY1.10CAD1.17EUR1.23GBP1.33NZD1.50AUDテール比 P(z≤−2)/P(z≥+2)
対USDで標準化した6通貨のテール比 P(z≤−2)/P(z≥+2)。1.0が対称。豪ドル・NZドルは下落側、円は上昇側が厚い。
この図には落とし穴があります。 テール比は「どちらを下と呼ぶか」=引用方向に依存します。 私たちは6系列すべてをFRED定義と照合し、規約を反転すると比が厳密に逆数(積が6通貨とも1.000)になること、 そして通貨間の順序は規約によらず不変であることを確認しました。だから「豪ドルと円が逆向き」は人工物ではありません。 ただし、より本質的な限界として、6通貨はすべて対ドルです。「豪ドルの下落テール」と「円の上昇テール」は 同じリスクオフを別の通貨から見たものであり、独立な6つの観測ではありません。だから本稿ではこれを 「発見」ではなく、確認を要する事後的な観察として扱います。

+1唯一生き残ったもの:いつ動くか

確認候補 7つが消えた一方で、一つだけ点検を通過した問いがあります。「次に大きく動くまでの待ち時間」は、 方向ではなくタイミングを予測します。時間帯で条件をそろえた後も、直前のボラ状態は待ち時間に情報を持ち続けました。

0.000.040.070.110.14無条件 0.0500.0300.0410.0520.0730.0540.0350.0360.0470.0480.0690.06100.05110.05120.06130.06140.13150.10160.10170.05180.03190.02200.03210.02220.0223大変動ハザード
USDJPY H1の時間帯別ハザード(次の1時間に大変動が起きる確率)。ロンドン・NY重複帯(15時GMT)で無条件0.050の2.6倍、深夜帯では0.3倍。時間帯だけでこれだけの差がある。

これは正直に言えば、ボラティリティ・クラスタリング(荒れた相場は続く)から自然に予想できる範囲で、 驚きの発見ではありません。そして決定的なことに、方向を教えてくれないので、 これ単体では売買ルールになりません。次に確認するなら、単純な現在ボラやHAR型予測を超える増分があるかを、 別の期間で測る必要があります。本稿ではこれを「次回の確認候補」として保留します。

この検証から持ち帰るもの

8つの高速スクリーニングで繰り返し現れたのは、次のパターンです。 集計した瞬間の数字は、しばしば有望に見える。しかしその多くは、 年次の安定性・相場のドリフト・コードの先読み・ボラティリティとの交絡・コスト構造・引用方向といった 個別の代替説明を一つ取り除くと、維持されなかった。

これは「無料データには何もない」という結論ではありません。8件では、そこまで一般化できません。 言えるのは、点検を先に決めておくこと——本稿の第4節でバグを捕まえたのは、 結果を見る前に「グロスPFも見る」と書いておいた一行でした——の価値です。

方法と限界。 データはすべて無料(Dukascopy由来のOHLC、FRED H.10日次)。対象は主にUSDJPY・GBPJPY(H1)と G10 6通貨(日次)。各仮説は走行前に「問い・事前の想定・打ち切り条件」を固定し、事後に基準を動かしていません。 本稿は8つの問いの一次スクリーニングであり、確立した研究ではありません。生き残ったH-09は事前登録された 確認候補、第7節の通貨別テール差は事後的な観察です。いずれも「証明された」ではなく「この範囲で観測された」に とどまります。第4節の先読みバグは自己検出しましたが、それは他の実装にバグが無いことを保証しません。 外部確認は今後の課題です。図はすべて出力CSVからPythonで描画しており、数値の手入力・画像の加工はありません。 2025年のデータは検証設計上すでに参照済みで、今後の未閲覧テストには使えません。
USDJPYGBPJPYG10 daily FRED H.10free data onlypre-registered

Urban Flux Research — 非自明な市場構造の探索と、その正直な地図づくり。