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指標実測 02 — ボリンジャーバンド コストに届かず

言い伝えは、3つとも正しかった
ボリンジャーバンドは何を測っていたのか

この記事は、いつもと逆の形になります。 ボリンジャーバンドについて世間で言われている3つのこと——「バンドの外に出たら平均に戻る」 「バンドウォークは起きる」「スクイーズの後は大きく動く」——を実測で検定したところ、 3つとも支持されました。通説が正しかったのです。 それでも、売買としては成立しませんでした。この記事は、その2つが両立する理由についてのものです。

GROSS EDGE
0.0040 pip
向きの取り分(中央値の絶対値)
MEASURED COST
2.00 pip
往復・実測スプレッド+手数料
GAP
約 500 倍
シリーズ3巻で最大の開き
この記事の結論

1. 3つの通説は、いずれも実測で支持されました。 とくに「±2σの外は5%」については、実測が 12.94%——つまり通説の想定より2.6倍も頻繁に起きていました。

2. それでも売買にはなりませんでした。 逆張りの95%信頼区間は0をまたぎ、向きの取り分とコストの差は約500倍でした。 「現象が実在すること」と「そこから取り分を回収できること」は別の問題です。

3. バンド幅が将来の値幅を教えていたのも事実です。 ただしATRを揃えると、その説明力は 0.976(1.00=差なし)まで落ちました。 言っていたのはバンド幅ではなく、ATRでした。

013つの言い伝えを、順に検定する

まず、通説そのものを疑うところから始めました。実測がどうだったかを先に出します。

ボリンジャーバンドの3つの通説の実測結果。バンドウォーク7.8倍、バンド幅1.78倍、±2σ外は12.94%
図1:世間で言われる3つは、いずれも実測で支持されました。左=上バンドを超えた後にそれが続く確率(何もない時の 6.61% に対し 51.6%、約7.8倍)。中央=バンド幅が狭い時と広い時で、その後24本の値幅が 1.78倍 違う。右=終値が ±2σ の外に出た割合は 12.94% で、通説の5%より多い。
よくある誤解

「±2σの外は約5%」は正規分布を前提にした話です。 実際の値動きは正規分布ではなく、外れが厚い形をしています。 10通貨ペア・6年分・497,535本で数えたところ、外に出るのは20回に1回ではなく、8回に1回でした。 「めったに起きないこと」を根拠に逆張りを組むと、想定の2.6倍の頻度で建てることになります。

02それでも、売買にはならなかった

通説が正しいなら、逆張りは機能するはずです。実際に回しました。 下のバンドを割ったら買い、上のバンドを超えたら売り、24本持って手仕舞う。 発生した取引は 31,082回、平均は +0.177 pip です。プラスです。

ならば機能したのでしょうか。答えは「言えない」です。

バンドタッチ逆張り31082回の95%信頼区間を3通りの数え方で比較した図
図2:数え方を変えた3通りの95%信頼区間。3通りとも0をまたぎます。この検証では、独立の仮定を外すほど区間が広がりました(幅 1.50 → 2.83、約1.9倍)。つまり最初の区間は、実力を過大に確からしく見せていたことになります。

区間が0をまたぐというのは、「勝っている」とも「負けている」とも言えないという意味です。 そしてもう1つ、この検証には対称性があります。逆張りがダメなら逆をやればいい——順張りに変えて回すと、 平均は −0.177 pip、区間は [−0.925, +0.571]符号がひっくり返っただけでした。

この対称性の意味

同じ売買を逆にして、両方ともコイン投げと区別がつかないなら、 そこに回収すべき向きは見当たりません。 「向きは存在するが、自分は逆を選んでいた」という前提そのものが、実測とは合っていないということです。

向きの取り分
(最も寛大に見て)
0.0040
pip
実測コスト
2.00
pip(往復)
埋めるべき差
約500倍
シリーズ3巻で最大

03「戻っている」のに、なぜ取れないのか

ここが、この検証でいちばん納得しにくいところでした。 バンドの外に出た後、価格は確かに中心線まで戻ってきます。それなのに取り分にならない。理由は3つあります。

表1:「平均に戻る」が売買にならない3つの理由。どれか1つではなく、3つが重なっています。
理由中身
戻る先も動いている中心線は20本移動平均です。価格が下がれば中心線も遅れて下がります。「中心線まで戻った」は、必ずしも「元の値段まで戻った」ではありません。下がった価格と、下がってきた中心線が途中で出会っているだけの場合があります
戻らなかった側が重い戻らない場合、価格はそのまま下げ続けます(=バンドウォーク)。8割で小さく勝ち、2割で大きく負ける形は、平均するとゼロに近づきます。勝率が高いことと、収支がプラスであることは別のことです
戻る距離が小さい戻ってくる幅そのものが、往復コスト 2.00 pip に対して十分に大きくありません

3つ目が本質です。現象は実在し、方向も合っている。それでも取り分がコストより小さい。 この形は、指標の良し悪しでは動きません。

04バンド幅は、何を言っていたのか

3つの通説のうち「バンド幅は将来の値幅を教える」は、はっきり当たっていました。 バンド幅で10段に分けると、その後24本の値幅は 1.78倍 違います。

ここで、もっと単純なものを隣に置いてみます。ATR——ただ値幅を測って平均しただけの指標です。 ATRを10段に分け、その各段の中でバンド幅の大小を比べます。

バンド幅は将来の値幅を予測するが、ATRを揃えると説明力が0.976まで落ちることを示す2枚組の図
図3:左=バンド幅で10段に分けたときの、その後24本の値幅。確かに右肩上がりです。右=ATRを揃えたうえでバンド幅の上下を比べた比で、10段の中央値は 0.976。1.00 は「差なし」を意味します。左だけを見れば通説どおりですが、右は同じことをATRが既に言っていたことを示しています。

バンド幅は「平均 ± ばらつき」の、ばらつきの部分でできています。 そしてATRは、値幅を測って平均したものです。どちらも同じものを別の言い方で述べていた—— 実測は、そう読める結果になりました。

そしてこれは値幅(どれくらい動くか)の話であって、向き(どちらに動くか)の話ではありません。 値幅が読めても、向きが読めなければ売買にはなりません。

05自分で確かめる

検証に使ったMT5のソースコードを全文公開しています。登録もメールアドレスも要りません。 InpReportBandWalk を有効にすれば、01のバンドウォーク検定もそのまま走ります。

ただし本記事と同じ数字は出ません。ここに載せたのは10通貨ペアをまとめた値で、キットは1ペアぶんを回すからです。 確かめてほしいのは数字の一致ではなく、手続きのほうです。

書籍版について

『ボリンジャーバンドは、何を測っていたのか』(Kindle・準備中)

この記事には結果を載せました。書籍には手続きを書いています。 重複しないよう、記事に入れなかったものを挙げておきます。

  • 増分検定のやり方そのもの——対照の選び方、十分位で割る理由、順位化がなぜ必要か。ボリンジャーバンド以外の指標に当てるための手順
  • σと標準偏差の中身——なぜ2σなのか、母集団と標本のどちらで割っているのか、そこで何が変わるのか
  • 条件を足していくと何が起きるか——26分の1まで絞り込んだときの、取引数・成績・振れ幅の動き
  • 私が踏んだ失敗——上のバンドが中心線を超えるという、構造的に成立しない条件を数に入れていた集計ミス
  • IS/OOS の分割結果と、図版13点

記事だけで完結して構いません。コードは本を買わなくても使えます。

06同じ手続きで測った、他の指標

検証条件: 対象=10通貨ペア(AUDJPY/AUDUSD/EURJPY/EURUSD/GBPJPY/GBPUSD/NZDJPY/NZDUSD/USDCAD/USDJPY)/ 期間=2020.01.01–2025.12.31/逆張りの実測は1時間足・バンド20期間2σ・手仕舞い一律24本後・31,082取引/ 通説の検定は1時間足 497,535本/コスト=同期間の実測スプレッド+ECN往復手数料1.0 pip の中央値 2.00 pip。 信頼区間はブロック・ブートストラップおよびクラスター・ブートストラップ(seed固定・B=4000)で算出。 増分検定の被説明変数は次24本の実現レンジ(各通貨ペアの中央値=1.00に正規化)、バンド幅は 4σ÷中心線×10000、ATRはWilder平滑14期間。 掲載した数値はすべて過去データに対する集計であり、フォワードテスト・実口座運用の結果ではありません。

免責: 本ページは検証プロセスと棄却記録の開示を目的とした研究ノートです。投資助言ではありません。 特定の金融商品・取引業者の利用を推奨するものではありません。 バックテスト結果は過去データに基づくものであり、将来の利益を保証するものではありません。FX取引には元本割れのリスクがあります。 本記事の結論は検証した範囲に限られ、ボリンジャーバンドに予測能力が存在しないことを示すものではありません。 図表はすべて実測データからPythonで再描画したものであり、生成AIによる作画は含みません。