指標実測 04 — RSI 時期で消えた

逆張りは、実在しました。
ただし「短期」ではなく、しかも2023年からしかありませんでした

4本目にして、はじめてコストを超えたものが出ました。 振り返る本数を2本から96本まで動かすと、24本以上で 1取引 +2.4910 pip。実測コスト 2.00 pip を引いても残ります。 ここで筆を置けば「使える手法を見つけた記事」になります。なりません—— それを年で割ると、2020年から2022年は全部マイナスでした。 そしてその現象を捉えるのに、RSIは8通りすべてで「名前のない引き算」に負けました

BEST GROSS
+2.4910 pip
24本の騰落率で逆張り(コスト前)
RSI vs 生の引き算
8 / 8 敗
試した8つの本数すべてで下
IN-SAMPLE
−0.97 pip
条件を決めた期間では確認できず
この記事の結論

1. RSIの教科書的な使い方は、支持されませんでした。 70/30の逆張りは 11,412取引で −0.1665 pip、区間[−1.746, +1.413]。50クロスは 41,954取引で +0.1582 pip、区間[−0.094, +0.414]。どちらも0をまたぎます。

2. RSIは、直近の騰落率にも %K にも、何も足していませんでした。 順位相関は RSI–騰落率 0.854、RSI–%K 0.842。増分検定はどの向きでも 0.03 pip 未満です(コストは 2.00 pip)。

3. 道具を外して素材で測ると、コストを超えるものが出ました。そして時期で割ったら消えました。 24本の騰落率による逆張りはコスト後 +0.49 pip。ところが条件を決めるのに使った最初の80%では −0.97 pip で、区間は0をまたぎます。 年で割ると 前半3年は全部マイナス、後半3年は全部プラスでした。

01RSI は、何を計算しているのか

RSI は Relative Strength Index の略で、日本語では相対力指数といいます。 やっていることは、直近n本の「上げた分」と「下げた分」をそれぞれ平滑して、その比を0〜100に載せ替えることです。

ここで先に、ひとつ実務的な事実を置いておきます。 RSIのサインは、あなたが思っているより来ません。

表1:同じ「0〜100の指標」でも、目盛りの詰まり方がまるで違います。10通貨ペア・1時間足・2020-2025/373,562本。
指標上側にいる割合下側にいる割合合計
RSI(14) の 70/306.03%5.12%11.14%
%K(14) の 80/20(第3巻22.06%17.20%39.26%

約3.5倍ちがいます。同じ「買われ過ぎ」という言葉でも、指している場面の数が桁で違うということです。 ストキャスティクスの「買われ過ぎ」は4割の時間そうで、RSIの「買われ過ぎ」は1割の時間そうです。 どちらが正しいという話ではなく、言葉の使い方が指標ごとに勝手に決まっているということです。

02教科書どおりに回す

3つの使い方を、同じ条件で回しました。10通貨ペア・1時間足・2020年〜2025年・24本保有・往復コスト 2.00 pip。

表2:教科書的な3つの使い方。「勝率」は個々の取引の勝ち負けです。
使い方取引数グロス平均95%信頼区間
RSI(14) 70/30 の逆張り11,412−0.1665 pip[−1.746, +1.413]
RSI(14) 50クロスの順張り41,954+0.1582 pip[−0.094, +0.414]
RSI(2) 10/90 の逆張り(24本保有)47,497−0.2873 pip0をまたぐ
ここで、私は一度間違えました

3行目の RSI(2) を「マイナスだった」と書いた直後に、気づきました。 RSI(2) は2本ぶんの指標なのに、24本保有で測っていました。 指標の尺度と、手仕舞いの尺度が合っていません。

保有本数を変えて測り直すと、6本 +0.4608 pip12本 +0.102224本 −0.287348本 −0.5696符号が変わりました。短い指標には短い手仕舞いが要る——当たり前のことですが、 当たり前を確かめずに書くと、こういう間違いが本になります。 なお 6本の +0.4608 も、コスト 2.00 pip には届きません。

03RSI・%K・騰落率を、同じ机に載せる

「買われ過ぎ」を名乗る指標は複数あります。RSI と %K は、別々のことを言っているのでしょうか。 そして、どちらも指標ですらない「直近14本の騰落率」と、何が違うのでしょうか。

RSI・%K・直近14本騰落率の順位相関と増分検定の結果を示す三角形の図
図1:3つの順位相関と、増分検定の結果。どの向きに足しても、増える取り分は 0.03 pip 未満でした。増分検定は「片方を十分位で揃えたうえで、もう片方の上下で結果を比べる」やり方です。0.000 なら増分ゼロを意味します。実測コストは 2.00 pip なので、桁が2つ違います。

三角形のどの辺でも、同じ結論になりました。 RSI は %K に何も足さず、%K も RSI に何も足さず、そして両方とも「直近どれだけ上がったか」という引き算に何も足していません。

ここまでは第3巻のストキャスティクスと同じ結末です。 この記事が別の場所へ行くのは、ここからです。

04道具を捨てて、素材だけで測る

「RSIは効かない」で終わらせると、そこで思考が止まります。 RSI が騰落率の言い換えなら、騰落率そのもので測れば道具の問題は消えます。 残るのは「何本ぶんを振り返るか」という長さだけです。

そこで、長さを動かしながら地図を描きました。 n本の騰落率が上位10%なら売り、下位10%なら買い、24本持って手仕舞う。n を 2・3・5・8・14・24・48・96 と変えます。 上下10%で切るのは、どの n でも取引数を揃えるためです(各回およそ74,600取引)。

振り返る本数を2本から96本まで変えたときの1取引あたり損益。生の騰落率とRSIを比較した折れ線
図2:振り返る本数ごとの1取引あたり損益(コストを引く前)。きれいな坂になっています。2〜5本は区間が0をまたぎ、8〜14本は0をまたがなくなるがコストに届かず、24・48・96本でコストを引いた後もプラスが残ります。そして8本すべてで、RSI(n) のほうが下にいます

2つのことが、同時に見えています。

ひとつ。逆張りは実在します。ただし「短期」ではありませんでした。 2本や3本のような足元では取り分が出ません。24本——1日ぶん——まで伸ばして、はじめてコストを超えます。 そしてRSI(2) が狙っていたのは、いちばん何もない左端でした。

ふたつ。その現象を捉えるのに、名前のある指標は素材より弱かった。 差がいちばん開くのは5本・8本のあたりで、約1.7〜1.9 pip。48本まで伸ばすと差はほとんど消えます(−0.05)。 見当はついています——RSIは平滑をかけているぶん遅れます。n が小さいほど、平滑1回ぶんの遅れが相対的に大きくなる。 ただしこれは説明であって、検証ではありません。平滑なしのRSIを作って比べる必要があり、そこまではやっていません。

24本の騰落率
(コスト前)
+2.4910
pip
実測コスト
2.00
pip(往復)
コスト後に残る分
+0.49
pip ── シリーズで初めて

05喜ぶ前に、年で割る

コストを引いた後にプラスが残りました。このシリーズで初めてのことです。 ここで筆を置けば、この記事は「使える手法を見つけた記事」になります。

なりません。第1巻から繰り返してきた作法があるからです——良い数字が出たら、まず自分を疑う。

4通りに割りました。時期(未使用期間を残す)・年・通貨ペア・保有本数。 3つは通りました。通らなかったのは、時期です。

24本の騰落率逆張りを年ごとに集計した棒グラフ。2020-2022は全てマイナス、2023-2025は全てプラス
図3:同じ手法を年ごとに集計したもの(コストを引いた後)。ある時点を境に、符号が変わっています。これは「たまに悪い年がある」という形ではありません。全期間をまとめた1行 +0.49 pip だけを見ていると、この形は見えません。
表3:データの最後の20%を、条件を決めるときに一度も使わずに取っておいた結果。上位10%・下位10%という閾値も最初の80%だけで決めて、そのまま持ち込んでいます。閾値を後から決め直すと、それ自体が未来の情報になります。
取引数グロス平均95%信頼区間コスト後
IS(条件を決めた80%)59,704+1.0265 pip[−1.482, +3.466]−0.97 pip
OOS(未使用の20%)12,188+10.2850 pip[+6.073, +14.390]+8.29 pip
読み方を間違えないでください

OOSのほうが10倍大きい。これは「頑健だった」ではありません。 条件を決めるのに使った期間で −0.97 pip、区間は0をまたぎます。 つまり開発期間では、この現象を確認できませんでした。 全期間の +0.49 pip は、最後の20%が引っ張り上げていたものでした。 そしてその最後の20%は、そのまま2023年以降にあたります。

「円安局面の話ではないか」と思うのが自然です。実際、上位にJPYクロスが並びます。 そこでJPYクロスとそれ以外に分けました。どちらも2023年から符号が変わっていました。 念のためJPYクロスの2023年以降を全部取り除くと、残り全部で −1.74 pip、取り除いた部分が +7.11 pip

つまりこれは「円の話」ではありません。時期の話です。

何が2023年に起きたのか

答えられません。 金利差の拡大、政策の転換、市場参加者の構成の変化——いくつも候補は挙げられますが、 この検証はどれも確かめていません。確かめていないことを、もっともらしく書くのはやめておきます。 言えるのは、符号が変わった時点があるということだけです。 そして、3年ぶんのデータで符号が変わるものを「この先も続く」と考える根拠を、私は持っていません。

06この巻で、関門がひとつ増えました

第2巻で「効く」を判定する6つの関門を作りました。この検証は5つ目まで通ってしまい、 その先にもう1つ関門があることが分かりました。

表4:7つの関門と、この検証での結果。過去3冊は3つ目か4つ目で止まっていました。
関門問い結果
1その現象は、あるか実在した(24本以上)
2偶然と区別がつくかつく(区間が0をまたがない)
3向きを当てているか当てている
4もっと単純なものを超えるか超えていない(RSIは生の引き算に負けた)
5コストを超える大きさか超えた(+0.49 pip)
6ようやく、売買の候補——
7いつの相場でも起きるか前半3年はマイナス。ここで落ちた

7つ目は、この検証で新しく足したものです。そしてこれは最後に確かめるものではありません。 良い数字が出た瞬間に、いちばん最初にやるべきことです。

3で止まっていたら、この記事は「発見」を売る記事になっていました。 そして読んだ人は、2020年から2022年のあいだ、3年間ずっと負け続けたはずです。

07自分で確かめる

検証に使ったMT5のソースコードを全文公開しています。登録もメールアドレスも要りません。

InpLookbackMap を有効にすると、図2の地図がそのまま出ます——8つの本数を一度に回し、 生の騰落率と RSI(n) を並べて表示します。InpSplitByYear を有効にすると、図3の年別が出ます。

先に InpSplitByYear のほうを回してください。 多くの手法は、年で割ると印象が変わります。それを一度自分の環境で見ておくと、他人の成績表の読み方が変わります。

本記事の表は10通貨ペアをまとめた結果で、キットは1ペアぶんを回します。数字は一致しません。 確かめてほしいのは数字の一致ではなく、手続きのほうです。

書籍版について

『RSIは、何を測っていたのか』(Kindle・準備中)

この記事には結末を載せました。書籍には手続きを書いています。 重複しないよう、記事に入れなかったものを挙げておきます。

  • Wilderの平滑を、手で追う章——なぜ単純移動平均で代用すると値がずれるのか。式を1行ずつ分解します
  • 増分検定の設計——対照に何を選ぶか、なぜ比ではなく差で見るのか、揃える段数をいくつにするか
  • 4通りの割り方の全結果——通貨ペア別10行、保有本数5行、JPYクロスの分離まで含めた表
  • 私が踏んだ間違いの全過程——RSI(2)を24本保有で測り、符号を取り違えたところから直すまで
  • 7つの関門の使い方と、次の巻の予告。図版12点

記事だけで完結して構いません。コードは本を買わなくても使えます。

08同じ手続きで測った、他の指標

検証条件: 対象=10通貨ペア(AUDJPY/AUDUSD/EURJPY/EURUSD/GBPJPY/GBPUSD/NZDJPY/NZDUSD/USDCAD/USDJPY)/ 期間=2020.01.01–2025.12.31/1時間足・373,562本/手仕舞い一律24本後(第2章の保有本数比較を除く)/ RSIはWilderの平滑(前の値を n−1 対 1 で引き継ぐ)で算出/ 騰落率は 終値比 (close/close[-n]−1)×10000/ コスト=同期間の実測スプレッド+ECN往復手数料1.0 pip の中央値 2.00 pip。 信頼区間はブロック・ブートストラップおよびクラスター・ブートストラップ(seed固定・B=4000)で算出。 IS/OOSは時系列で最後の20%をOOSとし、上位10%・下位10%の閾値もISのみで決定してOOSへ持ち込みました。 掲載した数値はすべて過去データに対する集計であり、フォワードテスト・実口座運用の結果ではありません。

免責: 本ページは検証プロセスと棄却記録の開示を目的とした研究ノートです。投資助言ではありません。 特定の金融商品・取引業者の利用を推奨するものではありません。 バックテスト結果は過去データに基づくものであり、将来の利益を保証するものではありません。FX取引には元本割れのリスクがあります。 本記事の結論は検証した範囲に限られ、RSIに予測能力が存在しないことを示すものではありません。 とくに「24本の逆張り」については、2023年以降でのみコストを超えていたという限定つきの観測であり、 今後も続くと考える根拠を本検証は持ちません。 図表はすべて実測データからPythonで再描画したものであり、生成AIによる作画は含みません。