4本目にして、はじめてコストを超えたものが出ました。 振り返る本数を2本から96本まで動かすと、24本以上で 1取引 +2.4910 pip。実測コスト 2.00 pip を引いても残ります。 ここで筆を置けば「使える手法を見つけた記事」になります。なりません—— それを年で割ると、2020年から2022年は全部マイナスでした。 そしてその現象を捉えるのに、RSIは8通りすべてで「名前のない引き算」に負けました。
1. RSIの教科書的な使い方は、支持されませんでした。 70/30の逆張りは 11,412取引で −0.1665 pip、区間[−1.746, +1.413]。50クロスは 41,954取引で +0.1582 pip、区間[−0.094, +0.414]。どちらも0をまたぎます。
2. RSIは、直近の騰落率にも %K にも、何も足していませんでした。 順位相関は RSI–騰落率 0.854、RSI–%K 0.842。増分検定はどの向きでも 0.03 pip 未満です(コストは 2.00 pip)。
3. 道具を外して素材で測ると、コストを超えるものが出ました。そして時期で割ったら消えました。 24本の騰落率による逆張りはコスト後 +0.49 pip。ところが条件を決めるのに使った最初の80%では −0.97 pip で、区間は0をまたぎます。 年で割ると 前半3年は全部マイナス、後半3年は全部プラスでした。
RSI は Relative Strength Index の略で、日本語では相対力指数といいます。 やっていることは、直近n本の「上げた分」と「下げた分」をそれぞれ平滑して、その比を0〜100に載せ替えることです。
ここで先に、ひとつ実務的な事実を置いておきます。 RSIのサインは、あなたが思っているより来ません。
| 指標 | 上側にいる割合 | 下側にいる割合 | 合計 |
|---|---|---|---|
| RSI(14) の 70/30 | 6.03% | 5.12% | 11.14% |
| %K(14) の 80/20(第3巻) | 22.06% | 17.20% | 39.26% |
約3.5倍ちがいます。同じ「買われ過ぎ」という言葉でも、指している場面の数が桁で違うということです。 ストキャスティクスの「買われ過ぎ」は4割の時間そうで、RSIの「買われ過ぎ」は1割の時間そうです。 どちらが正しいという話ではなく、言葉の使い方が指標ごとに勝手に決まっているということです。
3つの使い方を、同じ条件で回しました。10通貨ペア・1時間足・2020年〜2025年・24本保有・往復コスト 2.00 pip。
| 使い方 | 取引数 | グロス平均 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|---|
| RSI(14) 70/30 の逆張り | 11,412 | −0.1665 pip | [−1.746, +1.413] |
| RSI(14) 50クロスの順張り | 41,954 | +0.1582 pip | [−0.094, +0.414] |
| RSI(2) 10/90 の逆張り(24本保有) | 47,497 | −0.2873 pip | 0をまたぐ |
3行目の RSI(2) を「マイナスだった」と書いた直後に、気づきました。 RSI(2) は2本ぶんの指標なのに、24本保有で測っていました。 指標の尺度と、手仕舞いの尺度が合っていません。
保有本数を変えて測り直すと、6本 +0.4608 pip/12本 +0.1022/24本 −0.2873/48本 −0.5696。 符号が変わりました。短い指標には短い手仕舞いが要る——当たり前のことですが、 当たり前を確かめずに書くと、こういう間違いが本になります。 なお 6本の +0.4608 も、コスト 2.00 pip には届きません。
「買われ過ぎ」を名乗る指標は複数あります。RSI と %K は、別々のことを言っているのでしょうか。 そして、どちらも指標ですらない「直近14本の騰落率」と、何が違うのでしょうか。
三角形のどの辺でも、同じ結論になりました。 RSI は %K に何も足さず、%K も RSI に何も足さず、そして両方とも「直近どれだけ上がったか」という引き算に何も足していません。
ここまでは第3巻のストキャスティクスと同じ結末です。 この記事が別の場所へ行くのは、ここからです。
「RSIは効かない」で終わらせると、そこで思考が止まります。 RSI が騰落率の言い換えなら、騰落率そのもので測れば道具の問題は消えます。 残るのは「何本ぶんを振り返るか」という長さだけです。
そこで、長さを動かしながら地図を描きました。 n本の騰落率が上位10%なら売り、下位10%なら買い、24本持って手仕舞う。n を 2・3・5・8・14・24・48・96 と変えます。 上下10%で切るのは、どの n でも取引数を揃えるためです(各回およそ74,600取引)。
2つのことが、同時に見えています。
ひとつ。逆張りは実在します。ただし「短期」ではありませんでした。 2本や3本のような足元では取り分が出ません。24本——1日ぶん——まで伸ばして、はじめてコストを超えます。 そしてRSI(2) が狙っていたのは、いちばん何もない左端でした。
ふたつ。その現象を捉えるのに、名前のある指標は素材より弱かった。 差がいちばん開くのは5本・8本のあたりで、約1.7〜1.9 pip。48本まで伸ばすと差はほとんど消えます(−0.05)。 見当はついています——RSIは平滑をかけているぶん遅れます。n が小さいほど、平滑1回ぶんの遅れが相対的に大きくなる。 ただしこれは説明であって、検証ではありません。平滑なしのRSIを作って比べる必要があり、そこまではやっていません。
コストを引いた後にプラスが残りました。このシリーズで初めてのことです。 ここで筆を置けば、この記事は「使える手法を見つけた記事」になります。
なりません。第1巻から繰り返してきた作法があるからです——良い数字が出たら、まず自分を疑う。
4通りに割りました。時期(未使用期間を残す)・年・通貨ペア・保有本数。 3つは通りました。通らなかったのは、時期です。
| 取引数 | グロス平均 | 95%信頼区間 | コスト後 | |
|---|---|---|---|---|
| IS(条件を決めた80%) | 59,704 | +1.0265 pip | [−1.482, +3.466] | −0.97 pip |
| OOS(未使用の20%) | 12,188 | +10.2850 pip | [+6.073, +14.390] | +8.29 pip |
OOSのほうが10倍大きい。これは「頑健だった」ではありません。 条件を決めるのに使った期間で −0.97 pip、区間は0をまたぎます。 つまり開発期間では、この現象を確認できませんでした。 全期間の +0.49 pip は、最後の20%が引っ張り上げていたものでした。 そしてその最後の20%は、そのまま2023年以降にあたります。
「円安局面の話ではないか」と思うのが自然です。実際、上位にJPYクロスが並びます。 そこでJPYクロスとそれ以外に分けました。どちらも2023年から符号が変わっていました。 念のためJPYクロスの2023年以降を全部取り除くと、残り全部で −1.74 pip、取り除いた部分が +7.11 pip。
つまりこれは「円の話」ではありません。時期の話です。
答えられません。 金利差の拡大、政策の転換、市場参加者の構成の変化——いくつも候補は挙げられますが、 この検証はどれも確かめていません。確かめていないことを、もっともらしく書くのはやめておきます。 言えるのは、符号が変わった時点があるということだけです。 そして、3年ぶんのデータで符号が変わるものを「この先も続く」と考える根拠を、私は持っていません。
第2巻で「効く」を判定する6つの関門を作りました。この検証は5つ目まで通ってしまい、 その先にもう1つ関門があることが分かりました。
| 関門 | 問い | 結果 |
|---|---|---|
| 1 | その現象は、あるか | 実在した(24本以上) |
| 2 | 偶然と区別がつくか | つく(区間が0をまたがない) |
| 3 | 向きを当てているか | 当てている |
| 4 | もっと単純なものを超えるか | 超えていない(RSIは生の引き算に負けた) |
| 5 | コストを超える大きさか | 超えた(+0.49 pip) |
| 6 | ようやく、売買の候補 | —— |
| 7 | いつの相場でも起きるか | 前半3年はマイナス。ここで落ちた |
7つ目は、この検証で新しく足したものです。そしてこれは最後に確かめるものではありません。 良い数字が出た瞬間に、いちばん最初にやるべきことです。
3で止まっていたら、この記事は「発見」を売る記事になっていました。 そして読んだ人は、2020年から2022年のあいだ、3年間ずっと負け続けたはずです。
検証に使ったMT5のソースコードを全文公開しています。登録もメールアドレスも要りません。
InpLookbackMap を有効にすると、図2の地図がそのまま出ます——8つの本数を一度に回し、
生の騰落率と RSI(n) を並べて表示します。InpSplitByYear を有効にすると、図3の年別が出ます。
先に InpSplitByYear のほうを回してください。
多くの手法は、年で割ると印象が変わります。それを一度自分の環境で見ておくと、他人の成績表の読み方が変わります。
本記事の表は10通貨ペアをまとめた結果で、キットは1ペアぶんを回します。数字は一致しません。 確かめてほしいのは数字の一致ではなく、手続きのほうです。
この記事には結末を載せました。書籍には手続きを書いています。 重複しないよう、記事に入れなかったものを挙げておきます。
記事だけで完結して構いません。コードは本を買わなくても使えます。
1冊にならなかった検証、棄却の記録、途中で気づいた間違い——記事にする前のものは、こちらに出しています。
「次はこの指標を測ってほしい」という要望も、どちらでも受け取っています。 第5巻は移動平均を予定しています——もっとも古く、もっとも広く使われ、そしてもっとも検証されていない道具です。
検証条件: 対象=10通貨ペア(AUDJPY/AUDUSD/EURJPY/EURUSD/GBPJPY/GBPUSD/NZDJPY/NZDUSD/USDCAD/USDJPY)/ 期間=2020.01.01–2025.12.31/1時間足・373,562本/手仕舞い一律24本後(第2章の保有本数比較を除く)/ RSIはWilderの平滑(前の値を n−1 対 1 で引き継ぐ)で算出/ 騰落率は 終値比 (close/close[-n]−1)×10000/ コスト=同期間の実測スプレッド+ECN往復手数料1.0 pip の中央値 2.00 pip。 信頼区間はブロック・ブートストラップおよびクラスター・ブートストラップ(seed固定・B=4000)で算出。 IS/OOSは時系列で最後の20%をOOSとし、上位10%・下位10%の閾値もISのみで決定してOOSへ持ち込みました。 掲載した数値はすべて過去データに対する集計であり、フォワードテスト・実口座運用の結果ではありません。
免責: 本ページは検証プロセスと棄却記録の開示を目的とした研究ノートです。投資助言ではありません。 特定の金融商品・取引業者の利用を推奨するものではありません。 バックテスト結果は過去データに基づくものであり、将来の利益を保証するものではありません。FX取引には元本割れのリスクがあります。 本記事の結論は検証した範囲に限られ、RSIに予測能力が存在しないことを示すものではありません。 とくに「24本の逆張り」については、2023年以降でのみコストを超えていたという限定つきの観測であり、 今後も続くと考える根拠を本検証は持ちません。 図表はすべて実測データからPythonで再描画したものであり、生成AIによる作画は含みません。