相関の高い2通貨ペアの価格差は平均に回帰する——これが統計的裁定(StatArb)の発想です。方向性リスクがなく、 円高でも円安でも毎日取引できる理想形に見えました。私たちは設計を変えながら3回挑戦し、 3回とも棄却しました。理由は一つに収束します——FXの日足では、そもそも共和分(安定した価格関係)が存在しない。 これは手法の失敗ではなく、市場構造の発見です。
「相関」は“同じ方向に動きやすい”だけ。一方「共和分」は“2つの差が一定範囲に戻ってくる”性質です。 StatArbが成立するには相関ではなく共和分が要ります。差が開いたら「いずれ戻る」と賭けられるからです。
その「戻りやすさ」を測るのがADF検定で、私たちはローリング窓でp<0.10になる割合を安定率としました。 50%以上(半分以上の期間で共和分が生きている)を採用条件にしました。
GBP/EUR・AUD/NZDの相対価値。GBPJPY-EURJPY D1はIS PF1.90/Val PF10.73と一瞬有望に見えたが、 統計的検出力が根本的に不足(年6-8トレード、Null p=0.076、DSR=0.118)。 AUDJPY-NZDJPYは共和分崩壊時のファットテール損失が期待値を破壊しました。
検出力不足を「10ペア束ねる」で解こうとした。だが全10ペアでADF安定率が50%未満、最高でもAUDJPY-NZDJPYの25.7%。 → Discovery 42:2020-2024のJPYクロスは構造的に共和分が不安定。
「JPYが非定常だから崩れるのでは?」と仮説。AUDUSD・NZDUSD等の非JPYで再検証 → さらに悪化(最高NZDUSD-EURUSDで21.0%)。 → Discovery 43:壁はJPYではなくFX日足の効率性そのもの。
2020-2024はBoJのYCC修正・利上げ、Fedの急速利上げで、通貨そのものがレジーム遷移を続けました。 2通貨の安定した均衡関係(共和分)が成立する前提が崩れ、スプレッドは「戻る」のではなく「片方向に流れ続ける」。 平均回帰を賭ける戦略にとっては最悪の地合いでした。
相関の高いペアでも、共和分の安定性を事前にスクリーニングしなければ平均回帰は幻になります。 「戻ってくる」前提が崩れた市場では、StatArbはコストとファットテールで静かに死にます。
撤退条件をプロトコルに事前明記していたため、OOS2025を未開封のままクリーンに撤退できました (カーブフィットの誘惑を回避)。StatArb軸は一旦クローズし、脱・円キャリー集中(多様化)はボラ・外部データ軸で追う方針へ転換しました。
FX日足の共和分が構造的に不在という発見は、今後StatArbに費やす時間を節約してくれます。失敗の記録は資産です。
検証条件: 対象=JPYクロス/非JPY 各C(5,2)=10ペア/時間軸=D1(一部H4)/Era=Full(IS≤2023-07)/ 採用閾値=ローリングADF p<0.10率≥50%/OOS2025は全研究で封印維持。 掲載数値はPythonバックテスト(ADFスクリーン)の実測値であり、フォワードテストは実施していません。
免責: 本ページは検証プロセスと棄却記録の開示を目的とした研究ノートです。投資助言ではありません。 バックテスト結果は過去データに基づくものであり、将来の利益を保証しません。FX取引には元本割れのリスクがあります。 図表はすべて実データ(検証レポート)からの再描画であり、生成AIによる作画は含みません。